立野純三(たての・じゅんぞう)
株式会社ユニオン代表取締役社長
1947年生まれ。1970年 甲南大学法学部卒業。1970年 青木建設入社、
1973年(株)ユニオン入社。1990年同社代表取締役社長。その他公職として、
公益財団法人ユニオン造形文化財団 理事長、公益財団法人 大阪産業局理事長、
大阪商工会議所 副会頭等を務める。
宮田裕章(みやた・ひろあき)
データサイエンティスト/慶應義塾大学教授
1978年生まれ。専門はデータサイエンス、科学方法論、Value Co-Creation。
データサイエンスなどの科学を駆使して社会変革に挑戦し、
現実をより良くするための貢献を軸に研究活動を行う。
専門医制度と連携し5000病院が参加するNational Clinical Database、
LINEと厚労省の新型コロナ全国調査など、医学領域以外も含む様々な実践に取り組むと同時に、
経団連や世界経済フォーラムと連携して新しい社会ビジョンを描く。
2025年大阪・関西万博テーマ事業プロデューサー、
Co-Innovation University(飛騨高山で2026年開設予定)学長候補。
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立野
宮田先生は大阪万博のプロデューサーとして「いのちを響き合わせる Co-being」をテーマとされていますが、その意図はどういうものですか?
宮田
端的に言うと、これまでの経済中心だった社会から、さまざまな価値を尊重して一人ひとりが輝ける社会への転換を図るということです。人類は今日まで3つの革命を経験しましたよね。
立野
農業革命、産業革命、情報革命ですね。
宮田
はい。農業革命では食糧の生産の仕方が変わることで富を蓄えることが可能となり、社会の階層が生まれました。産業革命では大量生産・大量消費によって経済のシステムが一変し、資本家と労働者での貧富の差が拡大しました。
立野
そしてデータが主役の情報革命。
宮田
ええ、この数十年続いてきて、最初はインターネットから始まり、Alphabet(Google)、Amazon、Apple、Meta(Facebook)など巨大テックと呼ばれる企業の繁栄や生成AIの台頭などにより社会のあり方そのものを変えるフェーズに差し掛かってきました。
立野
我々が今、情報革命の真っ只中にいるというわけですね。
宮田
そうです。この、情報革命の本質とは何か。それは、人と人が繋がるということです。今までの繋がりというのは断片的なもので、例えば封建制度や巨大な経済という仕組みがまずあって、その中に人の繋がりがありました。
立野
これからはそうじゃないと。
宮田
これからは一人ひとりの生き方が、重なり合って、響き合いながら社会をつくる。今がその一つの転換点じゃないかということで、“共鳴する社会”をテーマにしています。
立野
「Co-being」についてもう少しお聞かせ願えますか。
宮田
Co-beingパビリオンでは「Better Co-being」というコンセプトを掲げています。「お金より大事なものがある」とは昔から言われてきましたが、それがデジタルによって可視化できるようになりました。環境や命、人権、教育などを尊重しながら未来に向かうという理想が実現できる、そんな時代に来ています。
立野
サステナビリティやSDGsが広く知られるようになりましたね。
宮田
はい、そしてもう一つ大事なのが心身ともに満たされた状態、Well -beingです。しかし自分たちだけご機嫌では世界が沈んでいくばかり。とはいえ世界の正しさのために今を生きる人たちが不幸になるのも良くない。だから、この二つをどう調和させるかが「Better Co-being」です。それによってどんな未来を目指すのかを、みなさんとともに考える場にしたいのです。
立野
素晴らしいビジョンだと思います。しかしながら今、日本や世界を見ても、格差がものすごく開いていますよね。先生が取り組んでおられるシングルマザーの問題しかり。経済的な理由で子どもが大学に行けない。その一方で裕福な家庭に生まれると手厚い教育が受けられる。こうした現状を見ると、「Co-being」の実現は困難にも思えますが。
宮田
そうですね。情報革命で人と人が繋がれば理解し合えるという期待が当初はあったのですが、実際は分断が加速しています。理由はネット空間がお金を稼ぐ手段として利用され、滞在時間の最大化が目的になってしまっているからです。そういう環境下で人々は自然と自分が心地よい情報だけを取り入れるようになり、考えがより極端な方向に助長される、これが世界中で起きています。
立野
SNSを見ていてもそれが顕著です。
宮田
そこをこの万博の場で少しでも変えていきたいですね。お金を稼ぐ心地よさだけに偏らず、多様な価値を可視化した先で人々の生き方とどう重ね合わせていけるか、その問いを立てていくことが一つ。もう一つは、平均からこぼれ落ちる人への援助です。
立野
ああ、大切ですね。シングルマザーの問題もそう。
宮田
はい。日本は高度経済成長の中で、医療をはじめとして平均的なものを等しく届けるといった部分ではすごく成功した国なのですが、その平均からこぼれ落ちたときに厳しい現状が待っています。シングルマザーの問題も、女性が離婚すること自体は本来尊重されるべき選択ですが、母子家庭の5割以上が非正規雇用で、かつ子どもの扶養義務は道徳的、法的に女性側に行く傾向があります。
立野
半数以上が非正規ですか。育児を引き受ける圧を受けるのも多くは女性側ですね。
宮田
これらの困難が重なって、さらに体調でも悪くなれば生活が成り立たない。母子家庭の貧困率は、格差の国アメリカよりも高く、OECD38か国で最下位です。これからは平均的なフォローだけでなく、多様な人たちにもれなく寄り添える社会を目指していくことが必要だと思います。
立野
目を逸らしてはいけない問題ですね。難題ではありますが。
宮田
今までは困難でした。お金と時間がかかるから、一人ひとりに寄り添うことは持てる人たちへの贅沢なサービスだった。それが今はデータやAIをうまく活用すれば、コストをほとんどかけずに実現できる、そんな時代の転換点を今回の万博で提示したいですね。
立野
平均重視の弊害は、教育の場でもありますよね。実際にあった話ですが、日本の従来の大学教育では自分のしたい研究ができない学生が、オーストラリアに行くとすぐに受け入れられたそうです。そして今度は特出した人材を求めていた日本のある大学が、その人を招き入れたとか。日本はもう平均値ではやっていけない、特殊な才能を持つ人たちをどう育てていくかを考える時期だと思います。
宮田
おっしゃる通りですね。日本が平均値を尊ぶのは、例えば服装ひとつとっても顕著です。ドレスコードとは欧米の文脈でいうとある決まりの中で個性を表現することなのですが、日本の文化では個性を刈り取るものとして考えられがちです。立野さんも今日、素敵なポケットチーフをお召しですが、私も多様性の大切さを唱える者の一人として、このように自らの服装でも表現していかなければと思っています。
立野
先生が学長候補になっておられる飛騨高山のCo-Innovation University(仮称:2026年開設予定)でも多様な個性を伸ばす教育を目指していかれるのでしょうか。
宮田
そうですね。教育を一つの産業として捉えると、少子化が進む日本で大学を増やす必要はあるのかという批判もありますが、多様な生き方を支えていくために教育そのものを変革する必要があります。産業の話をしますと、アメリカと日本では経済成長がここ20年で全然違います。
立野
アメリカはIT企業を中心に成長を続けている印象ですが、日本はずっと横ばいですね。
宮田
アメリカはトップジャイアントと呼ばれるGoogleやAppleなどは全てイノベーションで成長していて、日本はそれができなかったのです。じゃあどうすればいいかとなったときに、教育にもそういうスタートアップ大学がチャレンジをして新しい取り組みをつくることが必要だと思います。
立野
新しい取り組みとはどのようなことでしょうか。
宮田
知識を習得して与えられた問題に答える従来の教育は、時代とともに役割を終えてきています。Google検索があり、生成AIに課題の整理さえも任せられるようになると、これから人間がやるべきは、問いを立てること、新しい課題に自ら問いを立てて取り組んでいくことだと思うのです。
立野
キーワードは問いを立てる力だと。
宮田
はい。新しいスタートアップ大学として飛騨で始めますが、その他の例えば富山など各地に13拠点くらいつくって、それぞれの社会課題や地域資源と向き合いながら問いを立てていくプログラムを構想中です。産学官が連携して未来をつくっていければ、そこに仕事が生まれて人が根付いていく。そんな未来づくりを学べる場にしていきたいですね。
立野
私も学校の理事などをさせていただく機会がありますが、従来の環境の中では先生がおっしゃるような発想は出てこないですね。全員に同じことをさせるのではなく個性をどう伸ばしていくかが大事だと思います。でも、行政が関わるといい方向に行かない気もしますが(笑)。
宮田
難しいところはありますね(笑)。もちろん行政にもご協力をいただきたいのですが、日本の行政システムは既存のものを守ることに注力されているので、何か別の視点で立ち上げないとイノベーションは起こせないかもしれません。
立野
多様性に関しては、女性の役員比率を上げましょうと日本でも言われるようになりましたが、まだまだ本当の意味で女性社員を育てる企業文化がこの国にはないと感じています。女性役員を30%にしたらそれでいいのかと。比率のような数字だけに囚われるのではなく、社員や会社の成長に結びつく採用や育成を行うべきだと思うのですが、先生はどうお考えでしょうか。
宮田
まず、シングルマザーの件もそうですが、日本の女性は世界から見ると非常に厳しい環境にいて、そのベースの部分から変えないといけません。その上で多様性を考えたときに、男性にもある種の解放が必要です。仕事をしないといけない、出世を目指さないといけないとか、そういうプレッシャーが男性にもありますので。
立野
家庭における男女の役割がフラットであるべきだと。
宮田
そうですね、もう少し言えば子育ては家族の問題という価値観を変えていくべきだと思っています。例えば北欧では、子どもを産んでくれたら社会が一緒に育てますという体制を整えて少子化が改善しているんですね。
立野
それはシングルマザーの方も助かりますね。
宮田
北欧のように人生の選択をニュートラルに考えられる状況がベースにあって初めて、女性も男性と同じようにキャリアを積んでいけるようになると思います。役員比率というのは指標の一つでしかなく、生き方を切り開くための根本的なことから改善が必要ですね。
立野
夫婦共働きが増えて少子化が進んでいますが、社会全体で子どもを育てていく考え方は大切ですね。日本でも少子化対策がいろいろ実施されていますが、なかなか効果が見えないように思います。
宮田
異次元の少子化対策も財源の問題で先送りになって、まだ実態が見えてきませんね。「個人で産んで社会で育てる」という環境の中で安心して家庭を持つ選択ができるようにというのが一つ、もう一つはそれによって性別による役割から解放されること、この辺をバランスよく見ながら改善していく必要がありますね。
立野
大阪トラックというものがありましたよね。データ流通や電子商取引に関する国際的なルールを作ろうということで、G20大阪サミットのときに当時の安倍総理が提唱されました。これについてはどう思われますか。
宮田
2023年1月に河野デジタル大臣がダボス会議でDFFT(信頼性のある自由なデータ流通)を再び取り上げて、推進する機運があったのですが、日本ではマイナンバーカードをめぐる問題で、国内では雲散霧消している状態です。
立野
そうでした、そうでした。
宮田
実は万博では未来社会の縮図として現金を使わずデジタルマネーでやり取りをする話になっています。そして、従来のドバイまでの万博ではパビリオンの連携がなかったのですが、今回はパビリオンやイベント同士が連携できる仕組みを整えています。
立野
ほう、今回の万博で初の試みなのですね。
宮田
はい。日本や世界の社会全体がデジタルバレーになるにはまだかなり時間がかかると思いますが、それをこの会場内でつくったら何が起きるのか、できるのかを実感する大きな機会になると考えています。
立野
お話を聞いているとすごく期待が膨らみます。何が起きるのかもう少し教えていただけますか。
宮田
例えば今までの紙幣中心のお金の流れは目に見えなかったのですが、デジタルマネーだと全部見えてくるという話です。日本は高度成長期以降、GDPも世界一のアメリカに迫る勢いでしたよね。
立野
はい。ジャパンアズナンバーワンなんて言われてそれはもうすごい勢いでした。
宮田
でもお金の流れで言うと、国際的なプレゼンスはアメリカに全く及びませんでした。なぜか。アメリカは稼いだ3倍のお金を使って、日本は3分の1しか使わなかったから。これは日本自体の大きな課題でした。
立野
お金の影響力だけで実は10倍近くも差が開いていたと。日本は投資をなかなかしない国ですもんね。
宮田
現在の日本でも岸田内閣が「貯蓄から投資へ」と呼びかけていますが、このままだと実現困難です。しかしデジタルマネーになれば、投資へ移行させるさまざまな動機付けができると思うんです。他にも、例えば移動による環境負荷の低減を進める場合、自転車や電車など低炭素な移動手段を選べばポイントがもらえるとなると、人々の行動も当然変わってきますよね。
立野
なるほど、自然とエコな移動手段に誘導できますね。
宮田
企業活動だって、この会社は人権擁護に貢献している、あの会社は途上国を搾取している、といったことが見えてきます。つまり、お金の動きがデジタルによって可視化されると、お金のことだけでなく、人々がよりよく生きるための営みに寄与しているかどうかも見えてくる。社会がこれまでと全く変わってくるんです。今回の万博が実験場となって、そんな未来社会を提示できればと思っています。
立野
素晴らしいお考えだと思いますが、まだ万博のPRとして私たちには見えていない気もします。
宮田
開催前はどうしてもネガティブなものが注目されますので、難しいところではあります。1970年の万博も開催前は反万博ムードだったと聞きますが。
立野
そうでした。で、開催してから、もう一気に人気が出ましたね。
宮田
事前にお見せできるものが少ないのは、プロデューサーとして心苦しくもあるのですが、これから少しでもお見せできるようにしていきたいです。
立野
期待しています。一方で、私は古い人間なのでデジタル社会になると心配なこともあります。マイナンバーカードもそうですが、個人が管理されすぎやしないかと懸念しているのですが。
宮田
信頼性をどう担保するかという問題ですね。そこがまさに大阪トラックの一つの目標でもありました。情報革命で最も成功したのはアメリカのシリコンバレーと中国です。シリコンバレーは企業がデータを扱う権限を持ちました。すると経済活動が中心になり、糖尿病の人に甘いものを与え、アルコール中毒者にアルコールを売るようになる。それが一番儲かりますから。
立野
極端ですね。中国はというと、政府が権限を独占しています。
宮田
はい、国の価値判断一つで決められるので、非常に怖い部分があります。人権や地球環境を守る仕組みを可視化して、その信頼の中でデータを扱えるような社会をつくっていく必要がある。そういう意味でアメリカと中国のちょうど中立的な役割として期待されている国が日本です。万博も一つの通過点として、日本がそういう信頼されるネットワークをつくることで未来が開かれると信じています。
立野
日本はすでに超高齢社会に入っていますが、高齢者の健康状態もデータを取って管理すれば、病気を未然に防ぐことができて、医療費の削減につながるのではないですか? 他にもいろいろな面でデータをうまく活用することによって、日本はまだまだ飛躍するチャンスがあると感じています。
宮田
高齢化は社会課題と言われますが、本来、長寿は人類の夢だったはずです。長寿で健康で、最後までその人らしく働くことができれば社会の負担にもなりません。今までだったら病気になってから病院に行って、お金をたくさん払って治すという話でしたが。
立野
病気を未然に防ぐことが難しかったと。できるようになりますか?
宮田
高齢者が歩けなくなって家に閉じこもり認知症が進行する、その手前でできることがあります。歩行量や速度が落ちてきたタイミングで対処できれば、症状を止めることができるかもしれませんし、そうなればその人らしく生活できる時間が増えます。
立野
高齢者でも、みなさんスマホは持ち歩いていますからね。
宮田
はい。スマホで取ったデータを活用して一人ひとりに必要な支援を必要なタイミングで、しかもプライバシーも守りながら、実現することが可能になります。
立野
万博がきっかけとなって社会が大きく変わるといいですね。高齢者も健康が維持できて仕事が続けられて医療費も減って、その分を子育てとかに回していけば、日本がもっと豊かになれるんじゃないかなあ。
宮田
ぜひ、みなさんと一緒に光明を見出せればと思います。
立野
日本では定年退職した人は、社会から一歩退く風潮があります。シニア層をもっと社会で使うべきだと思うんですよ。
宮田
そうですね。30年前くらいと今の日本では、高齢者の身体的な機能は大きく違いますし、今だったら70、80歳くらいでも問題なく動けるわけです。働きたい人が働ける場をつくるのは、本人の健康にも社会にもいいことなので、働きたい高齢者と社会をうまくマッチングすることも、高齢化の課題解決の重要なポイントだと思います。
立野
しかし高齢者は比較的にデジタルが使いこなせない世代なので、そこが心配です。キャッシュレスにしても、私もどちらかというと現金派ですし。デジタル社会で便利になると分かってはいるのですが。
宮田
そこは考えなくてはいけないところです。スティーブ・ジョブズの功績の一つに、デジタル機器を一部の機械マニアだけじゃなくて、小さな子どもからお年寄りまで直感的に使えるものに変えたことがあります。でもまだ不十分なので、もっともっとシニアの方々に楽しく使ってもらえるインターフェースを生むことが重要なのは間違いないですね。
立野
高齢者のデジタルに対するハードルを下げられるよう、行政なども交えて徹底して取り組んでほしいです。そうでないと、いろいろややこしいと感じてしまい、我々が生きている間は反対するかもしれません(笑)。
宮田
中国では1ヶ月で数億人にデジタルマネーが普及したことがありました。孫にお年玉をデジタルマネーであげると孫にダブルポイントが付くという、伝説のキャンペーンがあったんです。孫の喜ぶ顔が見たくて、シニア層の多くがデジタルマネーに移行したそうです。
立野
孫のためなら。強い動機付けですね。
宮田
楽しくて使いたくなるような、幸せな事例をいかにたくさんつくるかが今後大事だと思います。
立野
話は変わりますが、2024年になってすぐに能登で地震がありましたが、また何年かすると忘れてしまうと思うんです。私の先代が能登出身で、故郷の親戚に電話しても繋がらなかった。こういう事態って常に想定しておくべきですよね。スペースX社の衛星通信が被災地の一部で活躍したようですが、なぜ日本は過去の地震から学んでこうしたことができないのかと思います。
宮田
確かに、衛星回線を通信がパンクした地域に設置して補助回線をつくる仕組みは、災害発生地域の危機管理として常に持っておくべきですね。
立野
自衛隊も地方自治体からの要請がないと出動できないといいますが、首相が統率権を行使してすぐに自衛隊を被災地に送れば救えた命がもっとあったかもしれません。次は南海トラフ地震と言われていますが、過去から学んで、今までのデータなどを活かして、いつ災害が起きてもすぐに動ける国にするべきだと思います。
宮田
おっしゃる通り、それもデータの一つの役割です。ある困った出来事がありましたと、その出来事を分析した上で、うまくいった部分もあるでしょう。ただ、うまくいかなかった部分がどういう要因でそうなったのか、どうすれば改善できたのかを考えないといけません。能登の場合、二次避難の受け入れ先も、一人ひとりの生活を守りながら避難できる場所をマッチングできれば、不安も少なくできます。
立野
ボランティアの派遣も現地とのマッチングがうまくいっていなかったように見受けられます。
宮田
なぜかというと、ボランティアがデータ化されていないんですね。だから誰をどこに送ったらいいのか、うまくいかなかった。その経験を課題としてデータ化しながら対策をすることが今後は必要です。
立野
こんなにも地震の多い国なのだから、本当に過去の経験を活かしていけるように願っています。
宮田
能登の地震で東日本大震災から活かせたこととしては、「津波逃げろ」と各メディアが報道できたことだと思います。そこからさらに学ぶとするならば、例えばデジタルを活用して本当に危ない場所とそうでない場所を識別する。そしてそうでない場所はまた別の心配をする。津波一点絞りでないさらに被災地に役立つ報道が可能になるでしょう。
立野
能登地震のすぐ後に羽田空港で接触事故がありましたね。現場ではデジタルが普及していなかったのでしょうか。
宮田
関係者の話だと、アナログでやっていたみたいです。デジタル制御による許可がないと先に進めないシステムだったら起こらなかった事故かもしれません。今回の被害に比べれば、デジタルで仕組みをつくっておくほうが遥かにコストを抑えられると思うのですが。
立野
空港に関わらずこの国のさまざまな現場で、デジタルとアナログがつぎはぎなのかもしれませんね。
宮田
そのような状態から早く脱却して、デジタルを前提にした仕組みづくりを各業界が変えていくべきとき、それが今なんだと思います。
立野
私が長年携わってきた、建築業界もしかりです。建築とは人が全部関与しないと成り立たないのですが、今、人手不足でコロナの頃は海外からも人があまり来られないということで、人海戦術が遅れたりしています。まさに万博なんて人手を確保しないと大変ですよね。そんな中で建築業界もデジタルを取り入れていかないとだめだと思うのですが、先生にもぜひ一役買っていただきたいです。
宮田
建築業界とは、万博のパビリオンや飛騨高山の大学を通じて関わるようになって大きな学びがありました。DXを取り入れることで新しい可能性が生まれると感じています。
立野
万博を控えた今がまさにチャンスだと思います。ここでDX改革ができなかったら我々の業界が成り立たなくなるんじゃないかと心配です。
宮田
万博の建築に関しては、担当外ですのでそこまで当事者として考えていなかったのですが、目の前にある問題に関して、解決できそうなことがありそうな気がしますので、本当に、ちょっと考えてみます。
立野
海外の話を聞いていますと、DXが進んでいない日本のゼネコンに任してもうまくいかないことが結構あるみたいです。
宮田
安藤(忠雄)さんとお話したときのことですが、労働時間が7時間あったとして、みんなが一斉に働くのではなくシフト制にしてずらせば全体の稼働時間は増やせるんじゃないかと。そのことでランニングコストが多少上がっても、工期が全体として短縮できれば解決できるんじゃないか。そのシフトをデジタルで調整すれば実現できそうだと話していました。DXによってそういうふうに効率的に建築を進めていくことは十分に可能だと私も思います。
立野
ぜひ、先生には建築業界にもイノベーションをお願いしたいです。さて、最後になりますが、今度の万博は、子どもたちに何回も行ってもらいたいと思います。先生が考えておられるパビリオンに触れて感動し、未来の社会がどうなるのかを感じ取り、そして自分はどんな道を進みたいとか、そんな希望を持ってもらえるような万博になることを願っています。
宮田
2023年11月に万博の世界各国のパビリオン関係者を集めてディスカッションをする場があったのですが、子どもたちにも参加してもらいました。世界の方たちに質問をしてもらい、万博で何をしたいかを考えてもらったのですが、すごく発想がおもしろかったです。子どもたちが目を輝かせている姿には、上の世代としてとても刺激をもらいました。万博が開幕してもできる限りそういう場を提供していきたいと思います。
立野
先生のお考えを社会が必要とする場面はこれからもどんどん出てくると思います。どうぞお体に気をつけて、今後の一層のご活躍をお祈りしています。
(終了のお知らせ)
一同
ありがとうございました。
Planning:宮本 尚幸
Photography:澤尾 康博
Writing:守谷 直紀
Web Direction : 尾崎 大輔